9月26日水曜日 世界の車窓から南へ、マン島の機関車編

昨日の成功に気をよくして、今日も世界の車窓から、今度は南へ編。
ダグラスの街をエレクトリック・レイルウエイとは逆の方に行くと、そこにはスチーム・レイルウエイの駅があった。

スチーム・レイルウエイとは、その名の通り蒸気機関車。
始発は10時15分。どこまで行こうか迷ったが、あんまり先まで欲張らず途中のキャッスルタウンまでの往復を買う。6.8ポンド。ホームに入ると、おおお、早くも煙を吹き上げている。日本のD51とかのように巨大な車体ではないが、19世紀から走り続けているというホンマモンである。運転士のお兄ちゃん、石炭まみれですでに疲れていて、カメラを向けても愛想もない。

       
   

機関車を撮影して、そろそろ出発なので乗り込まなくては。客車はひとつひとつが独立したボックスが数珠つながりになっている馬車の座席のような形。なので一度乗ってしまうと車両の移動はできなくなるが、海側となるシートはすでに人が座ってしまっている。
どこかいい所ないかな?と探していると、窓から手を振るおじいちゃん二人組。
「おーい、あんたは昨日登山列車に乗っとったろう。ワシらと同じ列車だった。今度はどこ行くんだ。なに?日本のテレビ取材?ワシらをスターにしようというのか。まいったなあ。さあ早くここに乗らんか」というわけで、じいさんボックスに同乗。
彼らはウエールズからの観光だそうだが、道中いつまでマン島にいるのか、子供はいるのか、この汽車は今出しているスピードが最高速度だ、スコッチウイスキーよりアイリッシュウイスキーの方がうまいぞ、などといろんな事を話して過ごした。

   
ウエールズから来たじいさんと、車窓からの風景
   

汽車の最高速度は、GPSで測ったところ40km/hくらいだった。昨日の電車より汽車の方が速いんだね。
じいさんが「お前は英語をよく喋るなあ」というので「ほんの少ししか喋れないですよ」というと「いやあいっぱい喋っとる。ワシは日本語なんて”ボンザイ”しか知らんぞ」
「え?バンザイですか?」「そうそう。それと、”トラトラ”を知っている」「もしかして”トラ・トラ・トラ”?」
というわけで、おじいちゃん、お年が知れますなあ。

車内で住所やメルアドの交換をして、「日本に帰ったら写真送ってくれよ」とのことで、彼らとはキャッスルタウンで一緒に降りた後は別行動。脚の遅いじいさん二人組にかまっていると十分な観光が出来ないかもしれないので、僕は先にセンター街へ。
といっても太陽を反射して輝く海と静かな家並以外は、何もない。お城のようなものがあったので行ってみたら、それがキャッスルタウンという名の元になった「ルシェン城」だった。かつてマン島の王が住んでいた城で、このためここは19世紀まで島の首都だったのだそうだ。

   
   

5ポンド弱を払って中へ。かなり狭いものの「カリオストロの城」などに出てくる作りによく似ている。というより、映画や小説に出てくる西洋のお城というのは、みんなこの辺がモデルになっているのだろう。
人がひとり通れるギリギリの幅しかない螺旋階段をぐるぐるあがると、枝の先の葉っぱのように小部屋がある。それぞれが食堂だったり王への閲覧室だったり、中には牢獄や真っ暗な地下室も。

石造りの壁はやたらに厚くて2m近くもあるだろうか。窓は本の背表紙ほどしかなく、これなら当時の大砲はもちろん、今ここに原爆が落ちても大丈夫なのではというくらいの頑丈さ。さらに外側には2重に石の壁がそびえていて、いやあ、王様はこの中にシロアリのようにこもっていったい何をしていたのだろう。ここまで世俗と自分を隔絶するのは、何を恐れて?それにこんなに閉じこもってしまって、民の生活が理解できたの?
王というのは「偉い人」というより、ただ一番の恐がりだったのではいだろうか。

       
   
マン島の象徴3本足にも、いろいろ歴史があるらしい。
 
城を出てチーズバーガーとビールで昼食をとっていると、日本から電話。新内閣が組閣をしたそうだが、なんだかコップの中の嵐で派閥順送りの面々のようだ。なんだ、施政者が城に閉じこもって民衆から遊離しているのは、現代も同じかあ。

城内の曲がりくねった階段と比較的明るい部屋。でもこの壁の厚さは・・・。

左は漫画に出てくるような囚人の足につける鉄の玉。
他に当店自慢の各種拘束具も取り揃えてございます。

何重もの城壁に隠れて仕事をする、当時のゴルゴ13。
当時の時計。重りで動くため2部屋を占拠する機械類。

帰りの汽車の時間は、今度は間違えずに駅へ。戻ってくる時の汽車は、なんと後ろ向きに走ってきた。なるほど、考えようによっては電車だって後ろ向きに走っているんだもんね。
さて今度はどこに乗ろうかなとボックスを探していると、向こうの客車から女学生のように手を振る人が。おおっと、またあのじいさん二人組ではないか。
じいさん、キャッスルタウンで一度降りたあと次の汽車で島の南端、終点のポート・エアリンまで行き、そこを1時間観光して戻ってきたのだそうだ。時刻表を見ればなるほど可能。うーん、松本清張「点と線」並の計画性と行動力に加え、飯を抜く事もいとわぬバイタリティ。いやあ恐れ入りました。

「ポート・エアリンはすごくよかったぞ。ぜひお前も行ってこい」と言われたが、僕は明日から取材が本番でもはやそのチャンスはないのである。じいさんは脚が遅いから、と見くびった私が悪い。
罰として早々に部屋に戻り、編集を進める。あーなんでここまで来て、ライダーのしかめっ面とにらめっこ。少し残念!

客車を切り離し車庫に帰る汽車と、じいさんに「テレビだぞ!手を振れ」と指示され条件反射でバイバイをする地元の子供達。
9月27日(木)「プレスマンの仕事モード」へ…